
筆者:ジョージ秋山:1970年3月 少年サンデーにて連載開始
「金のためなら何でもするズラ」
この印象的な口癖とともに、1970年代に衝撃を与えた漫画「銭ゲバ」。
ジョージ秋山が描いたこの作品、発表から半世紀が経った今読んでも、めちゃくちゃ刺さります。

ここ最近の私ですが、お金関係の本を読むことが続いてまして 「銭ゲバ」というキーワードが他人事と思えず
ここいらでちょっとこの本を読んでみるかとタイトル買いしてみました。
存在は知っていましたが読むのは初めて。
そして読んだ感想は、当時の時代背景もあり、コンプラ上等な表現満載の、素敵な作品でございました。
いつの時代も普遍なテーマ 貧困・格差社会・承認欲求
格差社会、自己責任論、承認欲求。今の時代の問題って、実はこの作品の中にほとんど描かれてるんですよね。
主人公・蒲郡風太郎は、極貧の中で育ちました。
「金さえあれば幸せになれる」と信じ、殺人すら厭わない道をビュンビュンと突き進んでいきます。
そしてこの物語は、ただ単純に悪人を描いた作品じゃありません。
風太郎が悪いことをする裏には、貧困っていう暴力があって、愛情不足があって、社会からはじかれた経験がある。
彼は被害者であり、加害者でもある。
そういう複雑さが、この作品をただの「悪は滅びる」みたいな単純な話にしてないんです。
一歩違えば「無敵の人」にもなり得た存在ですね。
風太郎が壊れた瞬間──失われたのは「恋」じゃなく「信仰」
物語の序盤に、風太郎の人生を決定づける場面があります。
子供の頃、わざと車に轢かれて金持ちの屋敷に入り込んだ日。
そこで見たお嬢さんが花を持っている姿に、風太郎は見惚れます。

極貧の生活しか知らなかった少年にとって、それは初恋であり、初めて見た美しい光景であり、幸せの象徴として心に焼きついた瞬間でした。
でも後に、その美しい幸福の象徴だったお嬢さんが彼に命乞いをする。

このシーンで壊れたのは、恋心なんかじゃないんです。
もっと根源的なもの──人の心の純粋さ、美しいものは最後まで美しいという幻想、幸福は信じていいという前提。
つまり世間に対し、何かを信じるという「信仰」が壊れたんです。
だから風太郎は、二度と「心」というものに賭けなくなります。
愛は信用しない、情は利用する、金だけは裏切らない。
この生き方が、あの体験から論理的に一本でつながってる。
重要なのは、風太郎は金を信じたわけじゃないってこと。人を信じるのをやめた結果、金しか残らなかった。
それだけなんです。
※中盤、花を愛でる風太郎に「そんなに可愛がっても、花に心はねえんですぜ」と藤村俊次郎に言われ 普段冷酷な風太郎が珍しく涙ぐみながら俊次郎を殴るシーンを見開き1ページを使い、力を入れて描かれているところは印象的でした。
もう一人の風太郎──大学伸一郎という対比
物語の後半、風太郎の前に大学伸一郎という人物が現れます。彼もまた風太郎と同じように、極貧の中から這い上がってきた人間です。
でも決定的に違うのは、伸一郎には「信仰心」があったこと。
彼には信じるものがあった。だから進む道に迷いも後悔もない。
風太郎と伸一郎。同じ境遇から出発した二人が、まったく違う人生を歩んだ。
風太郎が失ったものの大きさを、伸一郎の存在が浮き彫りにする。
もし風太郎があの日、世間への何らかの希望を失わなければ──。そう思わずにいられません。
なぜ風太郎は 最後に自死を選んだのか
愛も信仰心も信じていない風太郎が、最後に自ら死を選びます。
金を手に入れた。権力も手に入れた。
終盤、選挙に立候補する渦中で、
自分という存在が世の中の糧になるかもしれないという、微かな信仰心にも似た希望を見出したような瞬間もあった。でもそれも続くことはなかった。結局、幸せにはなれなかった。
じゃあなぜ死ぬのか。
「金があれば幸せになれる」という信念すら崩れてしまったとき、風太郎には何も残らない。
人を信じることもできない。愛も信じられない。金も信じられなくなった。
それでも生き続けるということは、自分が築いてきたすべてを否定することになる。だから彼は死ぬしかなかった。
最後に彼は(悪しき者どもから私の心を守るため)にと書き残しました。
自らの命を断つ。それが最後に残った、彼の唯一の尊厳だったのかもしれません。
「いけしゃあしゃあと生きてられるじゃねえか」 悪人は誰?
絵の迫力がやばい
風太郎の顔がね、右と左で全然違うんですよ。半分ずつ顔を隠して見てみると全く違う人物に見える。本人の中の葛藤がすごいです。めっちゃ純粋な目をしてるかと思えば、次は完全に狂ってて、その次は絶望しきってて。コマ割りも大胆で、感情が爆発する場面はマジで圧倒されます。
特に印象に残るのが、風太郎が金を手に入れても全然幸せそうじゃない場面。結局、彼が本当に欲しかったのって何だったんでしょうね。金じゃなくて、もっと別の何かだったんじゃないかって。読んでると、風太郎と一緒にその答えを探してる気分になります。
キツイのに読むのをやめられない
正直、この作品にはキツイ場面が結構あります。暴力も裏切りも、人間の醜い部分も容赦なく描かれてます。
でも、それがこの作品のすごいところだと思うんです。きれいごとで済まさない。人間の心の暗い部分から目を逸らさない。そういう正直さがあります。
それなのに不思議と、読み終わった後に残るのは絶望だけじゃないんですよね。自分の価値観を見つめ直すきっかけになったり、今の生活に感謝できたり。そういう読者も多いみたいです。
大人になってから読むとめちゃ刺さる
学生の頃にはわからなかった複雑な感情とか、社会の理不尋さとか。働いて、人間関係で悩んで、お金の重みを実感してると、風太郎の苦しみが妙にリアルに感じられるんですよね。
さすがに彼ほど極端じゃないけど、「もっとお金があれば」「もっと認められれば」って思ったこと、誰にでもあると思うんです。この作品は、そういう誰もが持ってる欲望と向き合わせてくれます。
最後に
「銭ゲバ」は読んだ後、しばらく頭から離れない作品です。気軽に読める感じではないけど、人生で一度は読んでおきたい名作だと思います。
金とは何か。幸せとは何か。人間とは何か。
重いテーマだけど、説教くさくはないです。ただ、一人の男の人生を通して、考えさせてくれる。
週末の夜、ちょっと重めの作品に向き合ってみませんか。
読み終わった後、世界の見え方が少し変わってるかもしれません。

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