なぜ働くと本が読めなくなるのか?|働く大人が読書から離れる本当の理由

三宅香帆:著書 「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」 :2024年初版

「学生の頃はあんなに本を読んでいたのに、働き始めたら全然読めなくなった…」

そんな経験、ありませんか?

実はこれ、あなたの意志が弱いせいではありません

三宅香氏の著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)は、この現象を個人的な怠惰ではなく、社会構造としての問題として分析した画期的な一冊です。

本記事では、本書の要点を整理しながら、なぜ現代社会では働きながら読書することが難しくなったのか、

そして私たちはどうすればいいのかを解説します。


目次

📖 本書の核心メッセージ:「読書できない」のは、あなたのせいじゃない

本書の最も重要な主張は、シンプルかつ衝撃的です。

「読書できないのは”あなたのせい”ではなく、働き方や社会の価値観・時間の使われ方そのものが、読書という”ゆとりある営み”を成立させにくくしている」

著者の三宅香氏自身が「あんなに好きだった読書が、働き出したらできなくなった」という実感を出発点に、この問題を深く掘り下げています。

多くの人が「自分の意志が弱いから」「時間管理が下手だから」と自分を責めがちですが、本書は視点を180度転換させます。問題は個人ではなく、働き方と読書の関係性そのものが変化したという社会構造にあると指摘するのです。


🕰 明治から現代まで|読書と働き方の歴史的変遷

本書の大きな特徴の一つは、明治から現代までの日本における「読書と働き方」の変遷を丁寧に、たどっていることです。読書の意味や役割は、時代とともに大きく変化してきました。

明治〜大正期:読書=出世の手段

この時期に「自己啓発書」が登場し、読書は出世や教養をつけるための実用的な手段として機能していました。本を読むことは、社会的上昇のためのツールだったのです。

大正〜昭和戦前:階級を示す道具としての読書

教養や知識が階級や地位の象徴となり、読書は単なる情報収集ではなく、自分の社会的位置を示す道具としての性格を強めました。

戦後〜高度経済成長期(1950〜70年代):通勤読書とビジネス書の時代

出世や安定を求めるサラリーマン層の間で、ビジネス書や通勤時に読む文庫本が広がりました。教養だけでなく、効率性や実用性も重視されるようになります。

1980〜90年代:カルチャーとしての読書と情報化の始まり

教養としての読書だけでなく、嗜好やカルチャーとしての読書が広がります。しかし同時に、社会のスピードアップや情報化により、即効性のある情報や役立つ知識が重視され始めます。

2000年代以降(現代):読書の「ノイズ化」

仕事と私生活の境界があいまいになり、情報はスマホやネット中心に。すると、読書のように時間と余裕をかけて深く読む行為は、次第に不必要なノイズや贅沢とみなされやすくなってしまったのです。

このように、読書の価値が「教養・知識」から「即時性・効率性・実用性」へとシフトし、現代では読書の地位が相対的に下がってしまったという構造的な変化が明らかになります。


⚠ なぜ「働くと本が読めなくなる」のか:4つの構造的要因

本書では、現代社会が読書を阻む具体的な要因を分析しています。以下の4つは、多くの働く人にとって非常に身近な問題でしょう。

1. 時間はあるのに「心の余裕」が奪われている

意外なことに、労働時間自体は昔より減っている場合もあります。しかし問題は時間の長さではありません。

仕事のメールチェック、SNS、副業、複雑な人間関係などで精神的に消耗し、読書する余力が残らないのです。

物理的な時間と、心理的な余裕は別物なのです。

2. スマホ・インターネットによる「断片情報消費」の広がり

現代はすぐに得られる情報であふれています。

TwitterやInstagram、YouTubeなど、数秒から数分で消費できるコンテンツが溢れる中、長時間かけて深く読む読書は非効率でノイズとして後回しにされがちです。

結果として、読書が習慣から自然と外れていってしまうのです。

3. 仕事=アイデンティティ/効率優先の価値観

働き方が人生の中心となり、プライベートを楽しむ時間や文化・教養に触れる時間が「贅沢」とみなされやすくなっています。

人生をコントロールできる範囲が「仕事・即戦力・効率」に偏ってしまい、読書のような「直接的な成果が見えにくい活動」は価値を失っていくのです。

4. 読書の「ノイズ性」への偏見

読書には、余分な情報や すぐには役立たない知識が含まれる可能性があり、その分を(「無駄」とみなされやすい)という側面があります。

だからこそ、多くの人が「読書をしたいけどできない」「スマホやネットでついつい終わってしまう」と、感じてしまうのです。

結論として、読書できないのは意志が弱いからではなく、今の社会や働き方の構造、価値観の中で読書が成り立ちづらくなっているからだと本書は訴えます。


💡 本書が提案する「働きながら読書できる社会へ」

本書は単に問題を指摘するだけでなく、未来の可能性として「働きながら読書できる」社会や働き方のビジョンを提示しています。

提案1:「半身で働く」という新しい働き方

全身全霊で働くことをやめ、半身で働くという発想です。

仕事だけにすべてのエネルギーを注ぐのではなく、プライベートや趣味、読書の時間も人生の大切な要素として位置づけるべきだという提案です。

提案2:読書を「生活の一部/文化的余白」として再評価する

読書を「役立つ情報」を得るためだけのものとして捉えるのではなく、感性や思考を広げる時間、心のメンテナンスとして取り戻すべきだと本書は主張します。

読書はノイズではなく、人生を豊かにする文化的な余白なのです。

提案3:社会として「効率・即時性偏重」からの脱却

個人の努力だけでは限界があります。

生活や働き方の制度、雰囲気、価値観を問い直し、ゆとりあるインプット時間や深い読書・思考の余地を残す社会設計が必要だと訴えています。


📝 まとめ:読書を取り戻すために

三宅香氏の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、多くの働く人が抱える「本が読めない」という

悩みに対して、自己責任論ではなく社会構造からのアプローチを示した重要な一冊です。

本書から得られる重要な気づき:

  • 読書できないのは、あなたの意志の問題ではない
  • 現代社会の働き方と価値観が、読書を困難にしている
  • 読書は「無駄」ではなく、人生を豊かにする文化的余白
  • 社会全体で、ゆとりある働き方・生き方を再設計する必要がある

もしあなたが「働き始めてから本が読めなくなった」と感じているなら、それは自然な反応です。

この本を読むことで、自分を責めるのをやめて、どうすれば読書と仕事を両立できるのか

新しい視点で考えられるようになるでしょう。

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