
男性なのに、母性愛にあふれている
あなたは「美輪明宏」さんと聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。
テレビ番組でよく見かける、独特の存在感を持った人生相談の人。
あるいは厳しくも愛情のある言葉で人生を語る人。そういう印象を持つ方も多いかもしれません。
しかし『紫の履歴書』を読むと、そんなイメージだけでは 到底語り尽くせない人物であることがわかります。
歌手、俳優、演出家、作家。そして類まれな表現者。
美輪さんは一つの肩書きでは説明できないほど、多方面に才能と魅力を持った方です。
『紫の履歴書』には、そんな美輪さんのさまざまな魅力が詰まっています。
波乱万丈な人生、圧倒的な美意識、表現者としての才能、人間観察の鋭さ――その魅力を一つに絞るのはなかなか難しいものです。
そんな様々な魅力の中で、今回 私が皆様に紹介したいこの本の読みどころが「母性」です。
美輪さんは 男性でありながら
どこか母親のように人を包み込み、弱い立場の人に寄り添い、名もない人々の人生に光を当てる。
私は本を読みながら、何度も「この人はなんて母性的な人なのだろう」と感じました。
よいとまけ母ちゃん
美輪さんの小学生時代の授業参観エピソードです。
教室には着飾った母親たちが並んでいました。
互いの服装を上から下まで値踏みしている母親たちの姿にぼんやりと失望している丸山(美輪)少年。
そんな中、一人だけ遅れて入ってきたのは、モンペに手拭い姿の母親でした。
休み時間になると、クラスで一番汚く、一番出来が悪いと言われていた男の子がモンペの母親のもとへ駆け寄ります。
すると母親は、その子の顔を見るなり、自分の顔を近づけ
彼の垂らした鼻水を吸い取り、器用に庭へ吐き出しました。
「おお、汚い」
思わず顔をしかめる丸山少年。
続けてモンペの母親は手拭いで、一心に可愛い息子の顔を拭きます。
次第に丸山少年は、その母親の姿から目を離せなくなりました。
周囲の目など気にも留めず、ただひたすら我が子を思う母親の姿。
そんな一生懸命なモンペ母ちゃんの姿を見ている丸山少年の中に、やがて
言葉にならない感動が込み上げてきたといいます。
どんな着飾った他のお母さんたちよりも、そのモンペの母親こそが
一番教室で母親らしく思えたと本書に綴っています。
子どもを無条件に愛し、守り、世話をする姿。
その純粋な愛情。
社会の中で目立たない人々の人生に価値を見出すこと。
そして、弱い立場にある人へ自然と心を寄せること。
そうした美輪さんの視線は、後に『ヨイトマケの唄』にもつながっていくのではないでしょうか。
『ヨイトマケの唄』は、汗と泥にまみれながら働く名もなき人々への賛歌であり、
その根底には深い母性愛への敬意があります。
私はこの本を読みながら、美輪明宏さんの魅力は華やかな才能だけではないと改めて感じました。
人間の尊さを見つめる優しさ。
そして、人を包み込むような母性。
それもまた、美輪明宏という人の大きな魅力の一つなのだと思います。
エンターティナーとしての魅力

映画「黒蜥蜴」より(三島由紀夫はどんな褒め言葉より、女子高生から言われた「セクシー」が嬉しかったらしい)
もちろん美輪さんの魅力は母性だけではありません。
私が高校生の頃、リバイバル上映で観た映画『黒蜥蜴』は衝撃そのものでした。
あの妖しく美しい存在感は今でも忘れられません。
その影響が強すぎて、実は最近まで使っていたメールアドレスが「クロトカゲ」だったほどです。
理由を知らない人から見たら、なかなか不思議なメールアドレスだったかもしれません(笑)。
けれど、それほどまでに人を惹きつけるエンターテイナーでありながら、一方では名もない人々への深い愛情を持ち続けた人。
『紫の履歴書』は、そんな美輪明宏さんの人間的な魅力に触れられる一冊でした。


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