

107歳まで結婚も所属もせず、自分だけを生き抜いた美術家・篠田桃紅。海外渡航自由化より8年も早く、単身ニューヨークへ飛び込んだ度胸の人。「遠慮しない先輩」として、その言葉と生き方を紹介します。

1956年。まだ日本人が海外に自由に出られなかった時代。
ひとりの日本人女性が、墨と筆だけを持ってニューヨークに乗り込みました。
コネなし。英語も堪能とはいえない。知り合いもほぼいない。
それでも行った。 「成り行き任せ」という、ただそれだけの理由で。
その人の名前は、篠田桃紅。享年107歳。 わたしが「遠慮しない先輩」と勝手に呼んでいる女性の話です。
107歳で「これでおしまい」と言える人生って、どんな人生だろ。
「普通」を笑顔でスルーし続けた人
1913年生まれ。関東大震災も、東京大空襲も、結核も経験した世代です。
その時代、女性は女学校を出たら結婚するのが「普通」でした。 そんな空気など、桃紅さんにはまったく関係なかったようで。
結婚しない。どこにも属さない。組織にも家庭にも入らない。 自分の作るものだけは、誰にも何の遠慮もなく、勝手につくる。
……これ、昭和初期の話ですよ?
令和の今だってなかなかできないことを、100年前にさらりとやっていた。 しかも、グチひとつ言わずに。それがまた、かっこいい。
単独ニューヨーク、飛び込んだのは1956年
海外旅行が自由化されたのは1964年のことです。 つまり、一般の日本人がまだ自由に海外に行けなかった時代に、 篠田桃紅はすでにニューヨークにひとりで乗り込んでいました。
言葉の壁も、コネも関係ない。 墨と筆だけを持って、世界のアートシーンの中心地へ。
ニューヨークの一流ギャラリーで作品を発表し、海外の王室や宮内庁にも作品が収蔵されるほどの評価を得ます。
度胸? いや、これは度胸とかいう話じゃない。 「自分がやること」を信じていたから、怖くなかっただけだと思う。 そういう人が、世界には通じるんだなと、あらためて思いました。
本の構成――言葉と人生、2本立て
本書『これでおしまい』は、2部構成です。
**「ことば篇」**は、桃紅さんが人生をかけて見つけた言葉を、シンプルに並べたもの。 孤独、自由、老い、美しさ——短い言葉なのに、ずっしりくる。
**「人生篇」**は、写真とエッセイで自分の人生を振り返るパート。 生い立ちから、ニューヨーク時代、晩年まで。107年分の記録です。
ちなみにこのタイトル、制作中に桃紅さん本人が「これが最後の本になる」と繰り返し言っていたことから来ているそうです。 有言実行。最後まで、自分で決めた人でした。
「遠慮しない先輩」の言葉、3つ
1)「自由」の定義が、ちがった
桃紅さんは「自由」についてこう語ります。
自由とは、気ままにやりたい放題することじゃない。 自分というものを立てて、自分の責任で自分を生かしていくこと。 「自らに由る」——だから自由、と。
これを読んで、少し恥ずかしくなりました。 「自由に生きたい」と思いながら、誰かの顔色をうかがっていた自分に気づいたから。 本当の自由は、もっと静かで、もっと覚悟のいるものだったんですね。
2)孤独は、弱さじゃない
「人生というのは究極に孤独。誰もその人というものをそっくり受け止めることはできない。」
桃紅さんはこれを、寂しそうに言っているのではないんです。 むしろ、「だから面白い」くらいの温度感で。
孤独をちゃんと引き受けた人だけが持てる、静かな強さ。 この言葉、50代になったわたしには、なぜかとても腑に落ちました。
※孤独や「自分を持つこと」については、2000年前の哲学者もまったく同じことを言っています。気になる方はこちらも。 →「人生の授業」なんて大げさ?と思った人へ——エピクテトスは2000年越えで刺さる
3)思い出は「ある」だけでいい
「希望どおりにいかないのが現実。けど思い出は、悲しかったことでも、楽しかったことでも、”ある”ということがとてもいいことだと思いますね。」
107歳が言うと、重さが違う。 でも不思議と、読んだあとに心が軽くなる言葉です。
わたしが思ったこと
この本を読むまで、正直、篠田桃紅という名前を知りませんでした。
こんなにすごい「先輩」が日本にいたのに、と、ちょっと悔しかったくらいです。
でも、出会えてよかった。
「遠慮しない暮らし」を自分のテーマにしているわたしが目指しているものを、 この人はとっくの昔に、もっと激しい時代に、もっと鮮やかにやっていた。
そう思うと、なんか背中を押してもらえる気がするんですよね。
「あなたも、自分の人生を自分でやりなさいよ」って。
※自分の心が現実を作る、という話ともどこかつながる気がします。興味があればこちらもどうぞ。 →目に映る全てのことはメッセージ―もしも自分の心が現実を作っているとしたら
こんな人に読んでほしい
- なんとなく、誰かの顔色をうかがいながら生きている気がする人
- 「自分らしく」って何だろう、と最近考えはじめた人
- 50代以降の生き方のヒントが欲しい人
- 美しいものが好きな人(作品写真も収録。それだけでも価値あり)
まとめ
篠田桃紅『これでおしまい』は、老いの哲学書でもなく、ただの回顧録でもなく、 読む人の背中を静かにどつく本です(褒めてます)。
107年生きて、「これでおしまい」と言えた人がいた。 その事実だけで、この本を手に取る理由は十分だと思います。
わたしより倍以上長く生きた、カッコいいお姉さんの言葉、ぜひ受け取ってみてくださいませ。

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